典座教訓講義③

典座教訓

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觀音導利興聖寶林禪寺 比丘道元

 佛家に本より六知事有り、共に佛子たり、同じく佛事を作す。中就(なかんずく)、典座の一職は、是れ衆僧の辨食を掌(つかさど)る。

 『禪苑清規(ぜんねんしんぎ)』に云く、「衆僧を供養す、故に典座有り」と。 古(いにしえ)より道心の師僧、發心の高士、充(み)て來るの職なり。蓋し、一色(いっしき)の辨道に猶(よる)歟(か)。

 若し道心なき者は徒らに辛苦を勞して、畢竟、益無し。

 『禪苑清規』に云く、「須く道心を運(めぐ)らし時に随つて改變し、大衆をして受用安樂ならしむべし」と。

 昔日(そのかみ)潙山(いさん)、洞山(とうざん)等、之れを勤め、其の餘の諸大祖師も、曾て經(へ)來れり。所以に世俗の食厨子(じきずし)、及び饌夫(せんぷ)等に同じからざる者か。

 山僧、在宋の時、暇日、前資勤舊(ぜんしごんきゅう)等に咨問するに、彼等聊(いささか)見聞を擧し、以て山僧が爲に説く。此の説似は、古來有道の佛祖の遺す所の骨隨なり。

 大抵、須く『禪苑清規』を熟見すべし。然る後、須く勤舊子細の説を聞くべし。

  所謂、當職は一日夜を經て、先ず齋時罷(さいじは)に、都寺(つうす)、監寺(かんす)等の邊に就て、翌日の齋粥の物料を打す。所謂、米菜等なり。打得し了(おわり)て、之を護惜すること眼睛(がんぜい)の如くせよ。保寧(ほねい)の勇(ゆう)禪師曰く、「眼睛なる常住物を護惜せよ」と。

 之を敬重すること御饌草料(ぎょせんそうりょう)の如く、生物熟物、倶に此の意を存せよ。

 次に諸知事、庫堂に在て商量すは、明日甚なんの味を喫し、甚の菜を喫し、甚の粥等を設くと。 『禪苑清規』に云く、「物料並に齋粥の味敷を打す如きは、竝に預先まづ庫司くす知事と商量せよ」と。 所謂、知事には都寺、監寺、副寺ふうす、維那いのう、典座、直歳しっすいあり。

 味敷を議定し了りて、方丈衆寮しゅりょう等に嚴浄牌ごんじょうはいを書呈せよ。然る後、明朝の粥を設辨す。 米を淘えり菜等を調へ、自らの手にて親しく見、精勤誠心にして作せ。一念も踈怠緩慢にし、一事を管看かんかんし、一事をも管看すべからず。

 功徳海中に一滴も也また譲ること莫く、善根ぜんごん山上、一塵も亦た積む可きか。 『禪苑清規』に云く、「六味精せず、三徳給せずば、典座の衆に奉する所以ゆえんに非ず」と。